2013年3月1日金曜日

日本の建築に逆カルチャーショック

逆カルチャーショック



英国から帰国した時、東京の混沌とした景観に逆カルチャーショックを受けた。
背の高さの違う方向がバラバラのビルの組み合わせ。
まばらな大きさの看板。
その中に混じるコンクリートで創られたのっぺりとした無機質な素材の建物。
これらのアンバランスな組み合わせが中途半端な空間を生み出し、混沌さを強調させているように見えた。 
海外から見れば日本のポップカルチャーに見られる混沌さ、例えば原宿などは魅力的に見えるのかもしれない。
それはそれで良いと思うのだが、都市全体が不自然にごちゃごちゃしているのがとても気になった。
それは今まで日本にいた時には感じなかった感覚だった。
英国に住んだことによって日本と英国の町並みを無意識に比較したために感じた感覚だったのだと思う。



図1/新宿



日本の文明開化



日本は明治から「欧米列強に追いつけ、追い越せ」をモットーに西洋近代文明を積極的に吸収してきた。
図2の浮世絵では明治の西洋を取り入れた様子が描かれている。
男性も女性も洋服をまとい、西洋風の建物の中で踊っている。
外には桜らしき木が見える。



図2/浮世絵・貴顕舞踏の略図:楊洲周延



明治時代末からはモダニズム建築の理念が多く取り入れられてきた。
戦争の影響で資源が少なくなったことや戦後は戦災から早く立ち直るために、装飾は無意味で無駄だと考えられ伝統的な建築は否定されるようになった。
戦争からの復興、高度経済成長、バブル経済これらの影響で日本の建築は個性の少ない町並みになった。



図3/東京カテドラル聖マリア大聖堂 1964:丹下健三



日本は国を守るために自ら欧米の文明を取り入れて来た。
自国の文化を投げ出してまで欧米の文明を必死に取り入れ成長した日本だからこそ、植民地にならなかったという面もある。
モダニズムの観念自体吸収することは悪いことではないと思う。
海外の新しい技術や思想を吸収することによって発展することは素晴らしいことだと思う。
しかし一方で、日本の文化や歴史を置き去りにし発展した結果、重要な歴史的建築物や民族風習が否定され、忘れ去られてきたことは悲しいことだ。



非効率な美しさ



欧米では新しいものを取り入れる反面、古き良き物もとても大事にしている。
以前住んでいた英国のBath spaという町には歴史的に貴重な建築物もいくつか残っており、町全体が世界遺産に登録されている。
図6の写真は三日月のようなカーブの形状をもつロイヤル・クレセント。
18世紀に集合住宅として建造され、現在はホテルとしても使われている。



図4/Bath spa 街全体の様子


図5/Bath spa 夜景:LifeInMegapixels


図6/ロイヤル・クレセント



町の建物はBath stoneという少し黄色がかった石で造られている。
街全体で細かく指定があり、電気の色から建物の高さなど指定されている。
駐車場も景観を損なうという理由でほとんどない。
図7の写真にもあるように、車は道路の端に寄せて長く列を作って停めるような形になっている。
そのおかげで町は昼も夜もファンタジーの世界のように幻想的で非常に歴史的な美しさを保っている。

ハンガリー人George Mikes著の 'How to be an Alien' という本では英国の特徴がユニークに書かれている。
例えば、英国人は不思議で医者ばかりいるストリート(一本の道路)を作ってとても不便だ。
同じような景色ばかりで迷ってしまい、非効率的だ。と書いてあった。
確かに英国では一本違う道路に出たとしても同じような建築が建っているので初めてきた場所ではかなり混乱する。
私も始めはかなり混乱して家になかなかたどり着けなかった。
図7の写真は全く別のストリートを撮ったものだが、非常に似ている。



図7/Bath spa のストリート



駐車場がなかったり、電気が暗めで見えにくいと言った不便な面も確かにあるが、効率重視ではなく、歴史の重要さ、景観を重視して造られる英国の町からは学ぶことがたくさんあると思う。




日本の看板について



日本の文字は平仮名、片仮名、漢字が組み合わされているため複雑に見える。
欧米のように英字のみであればよりすっきりと見えると思う。
例えば図8のニューヨークの写真ではビルと看板が写っているが、その看板の文字はすっきりとしていて主張が少なく景観に馴染んでいるように見える。



図8/ニューヨークのタイムズスクエア:atmtx



しかし、果たして本当に日本語の看板等が外観をより悪くしているのだろうか?

建物とは言えないかもしれないが、日本の屋台に使われる看板やのれんなどは主張が強い日本語の表記の自然と馴染んでいるように見える。
図9のお祭りの写真では屋台の前に大きくのれんが出ている。
手書き風で個性的だが周りと調和しているように見える。



図9/お祭りの屋台



ビルに掲示されている看板などの様式に問題があるわけではなく、もしかしたらその組み合わせで違和感が出ているかもしれない。
日本語には日本語の良さがあり、その見せ方によってはとても魅力的に見せることができると思う。



日本の歴史的な風景



日本の江戸の風景はとても魅力的に見える。
建物の高さはほぼ統一され、瓦屋根も統一感がある。
図10に描かれているのれんには家紋・屋号などが表示されており、表所にシンプルで個性的でひとつひとつが綺麗に見える。
多くの要素を使わず、素材や技術も制限された中で造られた建物だからこそ、統一感がでており綺麗にみえるのかもしれない。





図10/江戸図屏風・左隻第2扇下 (日本橋、日本橋高札場、小網町、
江戸の町屋(本小田原町の魚店)、江戸下町の河岸(米俵の荷揚げ))



日本にはこのような素晴らしい景観を造った歴史がある。
そういったものをもう一度見直していくことで、景観を損なわない新しい日本の建築を生み出していけるのではないだろうか。


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